2022年度から高等学校で本格導入された「総合的な探究の時間」。中学校でも「探究的な学び」が強く求められるようになり、多くの先生がその指導法に悩まれています。「何を探究させるの?」「どうやって生徒に“問い”を立てさせるの?」といった声は、全国で共通しています。
しかし、探究学習は決して特別な授業ではありません。社会とつながる課題に対して、生徒が自ら考え、調べ、まとめ、発信する――この一連の流れを丁寧に設計すれば、どの学校でも実施可能です。むしろ、教科学習では得られにくい「主体性」「協働性」「思考力」を育むチャンスでもあります。
本記事では、これから探究学習を導入したいと考えている中学校・高校の先生方に向けて、探究学習の基本的な流れ(5ステップ)と、導入前に押さえておきたいポイントをわかりやすく解説します。
まずは「難しそう」という先入観を手放して、一緒に探究の第一歩を踏み出してみませんか?
探究学習とは何か?その目的と意義
なぜ今、「探究」が求められているのか?
急速に変化する社会では、正解のない問いに向き合い、自ら学び続ける力がますます重要になっています。AIの進化、グローバル化、地域社会の縮小――これらの課題に対し、「言われたことをこなす力」ではなく、「課題を発見し、行動できる力」が必要とされているのです。
この背景のもと、文部科学省は学習指導要領に「探究的な学び」の強化を明記。特に「総合的な探究の時間」では、生徒が“自ら課題を設定し、調査し、表現する”プロセスを通じて、社会との接点を持つことが重視されています。
探究学習の定義とゴール
探究学習とは、「問いを立て、自ら調べ、深く考え、他者と共有しながら学びを深める学習プロセス」を指します。単なる調べ学習とは異なり、学習の起点に“自分自身の問い”があることが最大の特徴です。
ゴールは、「知識の量」ではなく、「知識の活用力」と「学び続ける姿勢」を育むこと。生徒一人ひとりが“自分の興味”と“社会の課題”をつなぎながら、主体的に思考・行動する力を身につけていきます。
教員は“教える人”から“伴走者”へ
探究学習において、教員は正解を教える存在ではありません。生徒が問いを掘り下げ、壁にぶつかりながらも前進するプロセスを伴走し、問い返し、応援する存在へと役割が変化します。
この変化は戸惑いでもあり、教育のやりがいを再発見するチャンスでもあります。
探究学習の基本的な流れ(5ステップで解説)
1. 課題の設定:問いを立てる
探究学習の出発点は、生徒自身の「問い」です。最初に関心のあるテーマを見つけ、そこから「なぜ?」「どうして?」と深掘りしていきます。
例:「旭川の観光客が減っているのはなぜ?」「地元の農業をもっと知ってもらうには?」
教員の役割:問いの絞り込みや問いの質を高めるサポートを行います。
2. 情報の収集:多角的に調べる
問いを掘り下げるために、文献調査、インタビュー、フィールドワークなどを行います。インターネットだけでなく、地域の人・専門家との対話が学びを深めます。
例:図書館で文献を探す/役所に聞く/商店街で話を聞く
注意点:信頼できる情報源を選ぶリテラシー指導も並行して行いましょう。
3. 整理・分析:仮説と発見をまとめる
集めた情報を分類・比較し、「何が言えるか?」「なぜそうなっているのか?」を考察する段階です。ここで仮説を立てたり、データの可視化なども行います。
例:収集したデータをグラフ化/意見の共通点を見つける
支援ポイント:分析の型(KJ法、マインドマップなど)を紹介すると効果的です。
4. まとめ・表現:学びを発信する
探究の成果を、レポートやプレゼン、ポスター、動画などの形で発表します。ここでは「誰に、どう伝えるか?」を意識したアウトプットが求められます。
例:保護者への発表会/地域の方への報告会
狙い:表現力とともに、社会とつながる実感が得られます。
5. 振り返りと評価:次につなげる
最後に、自分自身の学びやプロセスを内省し、友達の発表にもフィードバックを行います。探究の本質は「学び続ける力」です。振り返りがその力を育てます。
例:ルーブリックによる自己評価/相互評価ワークシート
教員の視点:評価は「結果」よりも「過程」を重視しましょう。
導入前に知っておくべき3つのポイント
1. 全ての教科とつながる学びになる
「探究は総合の時間だけ」と思われがちですが、実際には国語・理科・社会・家庭科など、あらゆる教科と連携できます。
たとえば、国語で「論理的に書く力」、理科で「仮説と検証の考え方」、社会で「課題の背景理解」など、教科学習の応用として探究が成立します。
👉 探究=横断的な学びの実践フィールドと考えると、普段の授業との接続が見えてきます。
2. 生徒の主体性を引き出す“仕掛け”が鍵
「生徒が自分から動かない」「問いが浅い」と感じることもあるでしょう。これは“問いの立て方”に慣れていないだけです。
初めは、問いのテンプレートや「テーマカード」などを使って“選ぶところから始める”とスムーズです。慣れてくると、生徒は自然と自分の関心と社会を結びつける力を養います。
👉 主体性は、訓練と成功体験によって育まれます。
3. 教員は“正解を教える人”から“問いを支える人”へ
探究では、教員が「導き手」として寄り添う役割を担います。答えを持っていなくても大丈夫です。むしろ、「どう思う?」「他に方法は?」と問い返すことで、生徒の思考は深まります。
また、チームティーチングや外部人材の活用も、教員の負担を減らしつつ探究の質を高める手段です。
👉 教員も“共に学ぶ存在”として新しい教育の形を楽しんでみてください。
全国の先行事例に学ぶ実践アイデア
「自分の学校で本当にできるのか?」という声に応えるには、他校の取り組みから学ぶことが近道です。ここでは、全国で注目されている探究学習の先行事例を紹介しつつ、ポイントを解説します。
長野県飯田OIDE長姫高校|地域農業×探究
農業高校の専門性を活かし、「耕作放棄地の活用」をテーマに探究学習を展開。地元農家へのインタビューや実地調査を通じて、生徒が作物の選定や販売戦略まで考案。
✅ 注目ポイント:教科横断型(農業・数学・国語)+地域連携で実現
✅ 応用のヒント:地域課題は“現場に聞く”だけでも生徒の関心が一気に高まる
静岡県焼津市立大井川中学校|ごみ問題×探究
家庭科と社会科の授業を活用し、「ごみの分別」「フードロス」など身近なテーマから生徒が疑問を設定。市の清掃センターやスーパーを訪問し、動画にまとめて発表。
✅ 注目ポイント:日常生活からスタート+調査→表現まで一貫
✅ 応用のヒント:校外学習を“探究活動”に置き換える視点が有効
東京都立千早高校|文化祭×探究発表
全校で「文化祭=探究の発表の場」と再定義。各学年・クラスごとに探究テーマを設定し、展示や発表で成果を共有。生徒のモチベーションが高まり、学校全体の学習文化にも波及。
✅ 注目ポイント:学校行事との融合で“全校探究型”を実現
✅ 応用のヒント:既存行事に探究の成果発表を重ねるだけでも効果大
これらの事例に共通するのは、「完璧を求めないこと」。最初から大規模に始めるのではなく、“小さく試して、徐々に拡大”する姿勢が鍵です。
まずは「小さく始める」ことが成功の鍵
探究学習というと、「時間がかかりそう」「教材がない」「生徒が主体的に動けるか不安」といった懸念がつきものです。しかし、完璧な計画や特別な設備は必要ありません。
むしろ、小さく始めて、やりながら軌道修正していくことが探究の本質と重なります。
授業の一部を“探究的”に変えるだけでもOK
たとえば、教科の中で「問いを立てて調べる時間」を5分でも設けてみる。地域の話題を取り上げて、生徒に感想や仮説を書かせてみる。そんな一歩から、探究は始まります。
クラブ活動や特別活動、総合の時間など、すでにある枠を活用するのも効果的です。
地域や外部との連携も“探究の入口”になる
「地域の人に話を聞いてみよう」「役所に質問を出してみよう」――こうした外との接点は、生徒にとって強烈な学びの体験になります。
先生一人で抱え込む必要はありません。学校外の大人との協働が、探究の幅と深みを自然に広げてくれます。
ツクルヒトは導入支援を行っています
ツクルヒトでは、旭川市を中心に中高生の探究学習をサポートするため、指導計画の相談・授業デザインの伴走・地域連携のコーディネートを行っています。
「探究をやってみたいけど、どう始めれば?」という先生は、ぜひお気軽にご相談ください。
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