「答えのない問いに、生徒たちはどう向き合うのか?」
そんなテーマのもと、旭川実業高等学校の2年生約160名が参加したのが、今回のブレインストーミング講座です。これは「総合的な探究の時間」における起業家教育の導入として行われたもので、講師を務めたのは日本政策金融公庫 北海道創業支援センターの鹿取大祐氏。全国規模で行われている「高校生ビジネスプラン・グランプリ」のサポートプログラムの一環でもあります。また、今回は旭川市役所地域活動推進課から平島淳嗣さん、木下哲夫さん、工藤優さん、日本政策金融公庫旭川支店から門馬昌彦さん、滝澤沙奈枝さん、村上淳樹さん、旭川信用金庫から岸上佳広さん、牛草博之さん、佐藤祐哉さん、有限責任事業組合じもじょき旭川から長谷川愛実さん、安岡理沙さん、高塚麻紀子さん、一般財団法人旭川産業創造プラザから上伊澤菜摘さん、松尾英将さんがファシリテーターとして参加しました。
講座の狙いは、“自由な発想”と“対話による創造”という、知識偏重型の授業とは一線を画す力を育むこと。近年の教育現場では「正解を覚える力」から、「問いを立て、他者とともに思考を深める力」へとシフトが求められています。その中で、ブレインストーミングはまさに“探究の入口”を開く技法として注目されています。
当日は、体育館いっぱいに模造紙と付箋が広がり、生徒たちはテーマに沿って思いついたアイデアを次々と書き出していきました。最初は遠慮がちだった表情が、やがて好奇心に変わっていく──そんな変化が、静かに、しかし確かに始まっていました。

生徒たちの「戸惑い」から始まった時間
ブレインストーミングと聞くと、「自由に発言していい」「突飛なことでも歓迎」というイメージを抱くかもしれません。しかし実際の現場では、そう簡単にはいきませんでした。
授業の冒頭、多くの生徒が戸惑いを見せていました。問いかけても反応は薄く、ペンは止まったまま。誰かが先に書くのを待っているような、そんな空気が漂っていました。
その背景には、生徒たちが日常的に「正解を出すこと」に慣れているという実情があります。評価されるのは“間違いのない回答”。だからこそ、「何を書いてもいい」「正解がない」という状況に、不安や緊張が生まれるのです。
さらに、実業高校という校種の特性上、進路や学力の幅が大きく、多様な価値観が混在しています。それゆえ、「自分の意見を出していいのか」「人の発言をどう受け止めたらいいのか」といった、コミュニケーションに関する不安も潜んでいました。
そんな中、今回の講座は、発言の“ハードル”をいかに下げ、誰もが安心して声を出せる場をつくれるか——そこが授業デザインの核心だったのです。
ブレインストーミング4原則が突破口に
体育館の空気が動き始めたのは、講師がブレインストーミングの「4つのルール」を紹介したあたりからでした。
- 批判しない
- 質より量
- 自由な発言を歓迎
- 他者への便乗OK
この4原則が示された瞬間、生徒たちの表情が少し和らぎました。特に「便乗OK」という言葉に、安心した様子を見せる生徒が多かったのが印象的でした。「自分で新しいアイデアを生み出さなきゃ」というプレッシャーが薄れ、「誰かの言葉に乗っていい」と思えることで、参加のハードルが下がったのです。
実践ワークでは、「学校生活をもっと楽しくするアイデア」をテーマに、まずは個人で付箋に書き出すところから始まりました。3分間の個人ワークの後、7分間のグループワークへ。模造紙の上に、各自のアイデアが次々と貼られていきます。
「ジャージ登校OK」「校内カラオケBOX」——突拍子もないようで、どこか“なるほど”と頷けるアイデアが次々に飛び出してきます。
講師は「とにかく30個、目指してみよう!」と呼びかけました。数値目標が示されたことで、ゲームのような空気が生まれ、班のなかには80個以上のアイデアを出すチームも現れました。自然と笑顔が増え、発言が活発になる中で、次第に体育館全体が“対話の場”へと変わっていきました。
この体験が、生徒たちにとっての“突破口”になったのです。

「発言の笑顔、尊重し合う姿、そして次への手応え」
ワークが進むにつれ、教室には笑い声と相づちが自然と広がっていきました。ある班では「その発想いいじゃん!」と誰かが声を上げると、別の生徒が「それにこんなの足してみたら?」と返す。発言をちゃかすことなく、互いの意見を尊重し合う雰囲気が出来上がっていきました。
「生徒の皆さんには意欲的にお取組みいただき、感謝しています。ほとんどのグループが30個を超え、中には80個も出た班もありました」——当日、登壇した鹿取氏からはそんな驚きの声も上がりました。
また、当日参画した連携団体の職員の方からは、「面倒くさがらずに意見を出し合う姿、そして楽しそうに取り組む姿に、私たちの方が元気をもらいました」との声も。講座は、単にアイデアを生むだけでなく、関係性を耕す時間でもあったのです。
生徒たちからも、「アイデアを出すのがこんなに面白いとは思わなかった」「便乗して広がるって、こういうことなんだ」といった声が聞かれました。
自らの発想に自信を持ち、仲間と響き合いながら思考を深める。こうした体験が、探究学習の“自走力”につながっていくのだと実感させられました。

次なるステップは「価値への変換」
今回のブレインストーミング講座は、“探究の入口”としての発散フェーズに特化した構成でした。生徒たちは、自らの手で「問いをつくる」楽しさと、「他者と広げる」価値を実感することができました。
しかし、ここで終わりではありません。ここから先は、出てきたアイデアを「誰の・どんな課題を・どう解決するか」に結びつけていく収束フェーズへと移ります。つまり、“アイデア”を“価値”に変えるプロセスの始まりです。
この段階では、ニーズの特定、ペルソナ設定、必要な経営資源、収支の見通しといった、ビジネス的な視点が求められます。ここでも問われるのは、正解を知っているかではなく、「問い続ける力」「協働して磨く力」です。
私たち教員の役割は、その過程で“方向を与える”のではなく、“考え抜くための問いを返す”こと。すでに生徒たちは、「自由に考えていい」という手応えを得ています。あとは、その感覚を失わせないように支えることが重要です。
「実業高校さんの取り組みは、将来の旭川を担う若者に可能性を与える、大変興味深い内容だと感じました」と話すのは、当日参画していた旭川市役所の職員のひとり。学校・地域・企業が連携し、若者の“思考する力”を育む土壌をどう広げていけるか。その問いは、教育現場だけでなく、地域社会全体に共有されるべきテーマです。
生徒一人ひとりが、「自分の言葉で語れるアイデア」を深め、やがて“社会に届ける価値”として育てていく——そんな探究の旅路が、ここから始まっていきます。
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