【「課題を発見する」とは何か】学習指導要領の定義と探究授業の実践法

「課題を発見する」と聞くと、単なる「テーマを決めること」と捉えてしまう先生方も少なくありません。しかし、学習指導要領が示す探究の本質は、もっと深いところにあります。

総合的な探究の時間(以下、総探)は、生徒が「自己の在り方や生き方」を考えながら、社会や生活との関わりの中で自ら問いを見いだし、それを掘り下げていく営みです。つまり、生徒が自分と課題の関係を明らかにし、実社会や実生活との接点を浮き彫りにすることこそが「課題を発見する」なのです。

この記事は、探究主任や教務主任の先生方を対象に、「課題を発見するとは何か」を改めて定義し、その定義を踏まえた実装の仕方を、年間計画から授業設計、評価方法に至るまで整理することを目的としています。

目次

第1章 定義の確認:「課題を発見する」とは

学習指導要領解説では、「課題を発見する」とは、自分と課題の関係を明らかにし、さらに実社会や実生活と課題との関係をはっきりさせることと示されています。

つまり、単に「調べてみたいこと」を選ぶのではなく、

  • その問いが自分にとってどんな意味を持つのか
  • その問いが社会や生活の課題とどうつながるのか
    を意識することが本質です。

また、総探は「課題設定→情報収集→整理・分析→まとめ・表現」という探究の過程を通じて学ぶ時間です。この過程のスタート地点が「課題発見」であり、ここでの深まりがその後の探究全体の質を左右します。

さらに留意すべきは、「課題は最初から完璧に設定できるものではない」という点です。むしろ、情報を集め、整理し、分析する過程で問いを問い直し、より焦点化された課題へと洗練させていくプロセスが重要です。この繰り返しこそが、探究的な学びの核心です。

第2章 「課題発見」をもう少し深く見てみる

① 自分とのつながりを意識する

課題は「誰かが困っていること」だけではなく、「自分にとってどんな意味があるのか」を考えるところから始まります。例えば、「環境問題」を扱うにしても、単なる地球規模の話ではなく、自分の生活の中で何ができるかに結びつけることが大切です。

② 社会や生活の中に目を向ける

課題は、日常の中の「違和感」から生まれます。

  • スーパーで地元産の野菜より輸入品が多い
  • 学校の図書室に本はあるのに利用者が少ない
  • 地域のお祭りが年々縮小している
  • 「自分の進路選択に迷いがある」

こうした身近な気づきが、問いの種になります。社会や生活と結びついた疑問は、探究の出発点として力を持ちます。ここで重要なのは、比較や観察、他者との対話を通じてズレに気づくことです。

③ 何度も問い直す

課題は、一度決めたら終わりではありません。調べていくうちに「やっぱりこの方向で考え直したい」となるのは自然なことです。むしろ、その繰り返しによって問いは磨かれ、より探究にふさわしいものになります。

この章のまとめ

つまり課題発見とは、

  1. 自分とのつながりを意識する
  2. 社会や生活の中の違和感に気づく
  3. 問いを何度も問い直し、深める

この三つを繰り返すことによって成長していくものなのです。

第3章 教育活動の設計

課題を発見する力を育てるためには、探究の流れそのものを学習活動として設計することが大切です。学習指導要領解説では、「課題設定→情報収集→整理・分析→まとめ・表現」という探究の過程を繰り返し体験することが示されています。

① 課題設定の活動

生徒が問いを見いだすためには、体験活動や対話が欠かせません。例えば、地域のフィールドワーク、外部講師の講話、同世代とのディスカッションなどを通じて「違和感」や「問いの種」を発見します。このとき、教師は「その課題は自分とどうつながっている?」「社会にとってどんな意味がある?」と問い返しながら深掘りを支援します。

② 情報収集の活動

課題を立てた後は、資料を読むだけではなく、一次情報の収集を重視します。アンケート調査、インタビュー、観察など、自分の足で得た情報が、課題への理解を一層確かなものにします。同時に、信頼できる統計や論文などの二次情報との照合も必要です。

③ 整理・分析の活動

集めた情報は、ただ並べるだけでは意味を持ちません。比較、分類、図式化などの方法を使って「なぜそうなっているのか」を考えます。例えば、SWOT分析やKJ法といったフレームワークを活用することで、漠然とした疑問が検証可能な問いに近づいていきます。

④ まとめ・表現の活動

最後に、自分の考えを形にします。レポート、プレゼン、ポスターなど形式は多様ですが、重要なのは「課題と自分・社会との関係がどう変わったか」を言葉で表現することです。発表後にフィードバックを受けて問いを問い直すことも、課題発見をさらに洗練させる契機になります。

ポイント

課題を「発見」するという営みは、一回限りの思いつきではなく、過程全体を繰り返すことで深まっていくものです。したがって、年間計画においても「課題設定に十分な時間を配当すること」が大きな鍵となります。

第4章 授業モデル&活動例(単元→授業)

モデルA:地域の人口動態から課題を考える

1年生の総探でよく扱われるテーマです。

  • 地域の人口データを調べる
  • 過去や他地域と比較する
  • 「なぜ減少しているのか?」「このままだとどうなるのか?」と問いを立てる
    ここから「地域活性化のアイデアを考える」という探究へと発展させます。

モデルB:キャリアと地域貢献を結びつける

「自分の進路」と「地域社会」を結びつけるモデルです。

  • 自分が興味のある分野(医療・観光・ICTなど)を挙げる
  • 地域が抱える課題と照らし合わせる
  • SWOT分析で「強み・弱み・機会・脅威」を整理する
    この作業を通じて、生徒は「社会にどう関わりたいか」を具体的に考えるようになります。

モデルC:外部機関と連携したプロジェクト

自治体や大学、NPOと連携して実施するPBL(課題解決型学習)です。

  • 行政から「地域交通の課題」について情報提供を受ける
  • 生徒がチームで調査・分析を行い、改善策を提案する
  • 発表後、専門家から講評をもらい、さらに課題を問い直す
    社会と直結したテーマに取り組むことで、生徒は「実社会と自分の関係」を強く実感します。

ICT活用の工夫

課題発見の過程では、情報の整理と共有が重要です。

  • クラウドで課題設定シートや調査記録を共有する
  • 図表作成アプリやマインドマップで思考を可視化する
  • 発表はスライドだけでなく動画やデジタルポスターも活用する
    こうしたICTの活用は、生徒の思考を整理し、他者との対話を促す助けになります。

ポイント

課題発見を支える授業は、「日常や地域に目を向ける」「自分ごとにする」「外部の視点を取り入れる」ことを意識するのが効果的です。小さな気づきが、大きな問いへと育っていきます。

私が個人的におすすめしているのは、『とりあえず、気楽に、色々なものを経験させてみる』というものです。そもそも生徒は、経験していないものに興味は湧かないし、自分に適性があるという判断もできません。先生方もあの手この手で生徒一人ひとりに対して「この子は何に興味があるのだろう」と考えることがあるかと思います。そういうときこそ食わず嫌いをさせずに、色々なものを経験させてみるのが良いのではないでしょうか。計画はもちろん大切ですが、内発的に探究を進める生徒は結果的に「自分にヒットするものを見つけた」だけのような気がします。

探究を担当している先生方は大変かと思いますが、まずは気楽に色々なものを経験させてみてはいかがでしょうか。

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第5章 評価設計

「課題を発見する」力を育むには、その過程をどう評価するかが重要です。学習指導要領解説では、総探の評価は「目標に準拠した評価」として行うことが明記されています。つまり、第1の目標に沿って資質・能力をどう育成したかを基準に評価する必要があります。

① 評価の観点

探究の過程を踏まえると、評価は大きく三つの観点に整理されます。

  1. 知識・技能:課題設定や情報収集に必要な知識や調査方法を活用できているか
  2. 思考・判断・表現:情報を整理・分析し、自分の考えを論理的にまとめられているか
  3. 主体的に学習に取り組む態度:課題を自分ごととしてとらえ、粘り強く問い直しているか

② 評価の方法

  • 過程の評価:課題設定シート、情報収集ログ、分析の記録などをもとに、取り組みのプロセスを評価する
  • 多面的な評価:教師の観察、ポートフォリオ、生徒の自己評価や相互評価を組み合わせる
  • 信頼性の確保:共通の評価規準を校内で共有し、複数の教師で確認する

③ 評価の証拠(エビデンス例)

  • 課題設定シート(自分と社会の関係をどう描いたか)
  • 調査記録(インタビュー内容、アンケート結果など)
  • 分析ワーク(SWOT表、マインドマップ、比較表など)
  • 発表資料や動画(論理構成や表現の工夫が見える)
  • 振り返り記述(課題がどのように変化したかを示す)

ポイント

「発表の出来栄え」だけで評価するのは誤りです。大切なのは、課題を発見し、問いを問い直しながら深めていく過程そのものです。評価は、その努力と成長をとらえる仕組みであるべきです。

第6章 校内体制・時数・外部連携(管理職向けToDo)

課題を発見する力を学校全体で育てるには、授業設計だけでなく、校内体制や時数配分、外部との連携が欠かせません。管理職や探究主任の先生方にとっては、この仕組みづくりが最重要のミッションになります。

① 校内体制の整備

  • 全体計画の三要素を明確にする:学校の教育目標、ふさわしい探究課題、育成すべき資質・能力
  • 各学年の系統性を確保:1年次=課題発見の基礎、2年次=本格的探究、3年次=成果発表と進路接続
  • 複数教員による指導体制:担当教員だけでなく、教科担任や外部協力者を巻き込む

② 時数の運用

  • 課題設定に十分な時間を割く:年度前半は「問いを立てる」活動に重点配分
  • 発表会の前倒しを避ける:早期に発表を強いると「浅いテーマ決め」で終わってしまう
  • 探究のサイクルを複数回転させる:設定→収集→分析→表現を小単位で回し、反復的に問いを磨く

③ 外部連携の活用

  • 地域課題を起点にする:現代的課題(SDGs)、地域課題(人口減少、産業振興)、進路課題を結びつける
  • 自治体・大学・NPO・企業との協働:出張講義、フィールドワーク、共同研究の機会を設定
  • 成果を社会に還元:発表内容を地域の会議や広報誌に掲載し、生徒の探究を「社会に開く」

ポイント

管理職にとっての最重要ポイントは、「課題発見に時間と資源を投じる仕組みを作ること」です。これが徹底されれば、生徒は「探究っぽい活動」を超えて、本当の意味で自分と社会をつなぐ課題を見いだすことができます。

第7章 生徒ワーク&配布資料テンプレ(雛形)

課題発見を支えるには、「問いを見える化する仕組み」が不可欠です。生徒が頭の中だけで考えていると、曖昧なままになりやすいため、シートやフレームを使って言語化・可視化することが効果的です。ここではすぐに授業で使える雛形を紹介します。

① 課題設定シート

  • 自分と社会の関係をマッピング
  • 「なぜ気になるのか」を記述
  • 初期の問いを書き出す
    → 生徒は「テーマ」ではなく「問い」として表現できるようになります。

② 情報収集ログ

  • どの情報源を使ったか(書籍・統計・インタビューなど)
  • 出典の明記
  • 信頼性チェック(誰が書いた?いつの情報?)
    → 調べ学習ではなく「検証」を意識させることができます。

③ 分析フレーム

  • SWOT表(強み・弱み・機会・脅威)
  • X-Yチャート(2軸で比較して位置づける)
  • KJ法(カードでアイデアを整理)
    → 考えを図にすることで、問いの深まりが見えるようになります。

④ 発表ルーブリック

  • 課題の妥当性(自分⇄社会との関係が明確か)
  • 情報の吟味(信頼性ある根拠を使っているか)
  • 論理性(筋道が通っているか)
  • 協働性(チームで役割を果たしているか)
    → 生徒は「何を目指せばよいか」が具体的に分かります。

⑤ リフレクションカード

  • 「今日の活動で分かったこと」
  • 「問いがどう変化したか」
  • 「次にやりたいこと」
    → 振り返りを通じて、課題発見が「更新される営み」であることを実感します。

ポイント

これらのテンプレートを共通化し、クラウド上で蓄積していくことで、生徒の成長過程が記録され、教師間での評価共有も容易になります。

第8章 よくある誤解と是正案

「課題を発見する」という言葉は分かりやすそうでいて、実際の学校現場では誤解が生じやすいポイントでもあります。ここではよくある誤解と、それに対する是正案を整理します。改善の視点は「問いを深められるテーマになっているかどうか」です。

誤解① 「課題=テーマ名」

  • 例:「環境問題について」「地域活性化について」
    →これは「調べたい分野」であって、まだ課題ではありません。

是正案:課題とは「自分との関係」と「社会との関係」を明らかにした問いです。
例:「学校で出る食品ロスを減らすにはどうしたらよいか」など。

誤解② 「課題発見=思いつき」

  • 例:「なんとなく気になるからこのテーマにした」
    → これでは探究が表面的になります。

是正案:違和感に気づいた後、比較・調査・対話を通じて問いを何度も問い直し、洗練する過程を大切にします。

誤解③ 「発表会の出来=評価」

  • 例:「スライドがきれいだから高評価」「話し方が上手だから高評価」
    → これでは探究の本質をとらえられません。

是正案:評価は「過程」を重視し、課題設定シート・調査記録・分析メモ・振り返りを証拠として多面的に判断します。

誤解④ 「課題は最初に決めたら変えてはいけない」

  • 例:「最初に設定した問いから外れないように指導する」
    → 実際には、課題は調査や対話を通じて変化・進化するものです。

是正案:課題が変わることを肯定的に捉え、「なぜ問いを変えたのか」を記録させることで学びの深まりを可視化します。

まとめ

「課題を発見する」とは、思いつきをテーマ化することではなく、自己と社会をつなぐ問いを時間をかけて磨いていく営みです。誤解をそのままにしてしまうと、活動は「調べ学習」や「発表会のための準備」に矮小化されてしまいます。逆に是正策を徹底すれば、生徒にとって「自分ごと」として社会をとらえる経験となり、探究の時間の本来の価値が発揮されます。

総合的な探究の時間は、生徒に「自分と社会をつなぐ問い」を立てさせる場です。しかし、実際の現場では「課題をどう発見させるか」「評価をどう設計するか」といった悩みが尽きません。

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出典

高等学校学習指導要領解説 総合的な探究の時間編

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