未来を担う人材を、学校だけで育てきれる時代ではありません。旭川実業高等学校で実施された「MVP作成講座」では、企業や自治体の実務家が教育現場に入り、高校生たちが地域や社会の課題に向き合う探究型授業を支えました。本記事では、企業・行政が教育に関与する価値と、その先にある新たな共創の可能性をお伝えします。
社会課題に向き合う高校生たち
旭川実業高等学校の2年生たちは、総合探究の授業で自分自身の興味関心から問いを立て、自らの地域や社会の課題を設定しました。テーマは、医療や高齢化、国際理解、生態系・環境保全、スポーツにおける栄養摂取など多岐にわたります。いずれも生徒自身が「身近な違和感」から出発し、自分ごととして掘り下げてきたものです。
この授業の特長は、アイデアの創出にとどまらず、それを「商品・サービスとして社会に届ける」ことに主眼を置いている点です。生徒たちは、課題の解決策をビジネスという形に変え、誰のために、どんな価値を、どう届けるかを考え抜きます。
その過程で重要な役割を果たすのが、企業や行政の“現場知”です。高校生の問いや仮説に対し、実社会の経験や専門性を持つ大人たちがフィードバックを返すことで、思考は一気に深まり、実現性が高まります。教育は閉じられた世界ではなく、社会の一部である――この授業は、そのことを体感できる設計になっていました。
MVP講座とは何か:企業・行政の知見を教育現場へ
MVPとは「Minimum Viable Product」の略で、「必要最小限の価値を持つ試作品」を意味します。スタートアップの世界では、初期段階の仮説を市場で検証するための重要な手法として知られています。
旭川実業高校では、このMVPの考え方を応用し、高校生の探究活動と結びつける形で授業を構成しました。当日は、講師を担当した日本政策金融公庫の鹿取大祐さんをはじめ、旭川市役所地域活動推進課の平島淳嗣さんと木下哲夫さん。旭川信用金庫から岸上佳広さん、牛草博之さん、佐藤祐哉さん。有限責任事業組合じもじょき旭川から高塚麻紀子さん、松倉友美さんなど多様な外部講師が参画。実務の最前線に立つプロフェッショナルたちです。
講座では、以下のような視点をワーク形式で学びます:
- 社会課題をどう商品・サービスに落とし込むか
- 誰をターゲットに、どのように届けるか
- 実現に必要な人・物・技術・収益構造とは何か

つまりこの講座は、単なる「ビジネス体験」ではなく、「価値創造と社会実装のプロセスを学ぶ教育」であり、企業や行政が培ってきた知見がそのまま教育資源として機能しています。専門性とリアリティをもたらす外部人材の関与こそが、授業の質を決定づけているのです。
協働のメリット:企業・行政にとっての価値
教育現場に関わることは、「支援」ではなく「投資」でもあります。MVP講座のような実践に企業や行政が参画することは、生徒の成長を支えると同時に、自組織の価値創造にもつながります。具体的には、以下のようなメリットが挙げられます。
1. 未来人材との接点が得られる
講座を通じて出会う高校生たちは、地域課題を深く理解し、自ら問いを立て、行動に移す力を育てています。そうした人材は、将来の採用候補としてだけでなく、地域との関係性を築く上でも重要な存在となり得ます。
2. 若手社員の育成フィールドになる
外部講師として参加した若手社員は、ファシリテーション力やロジカルシンキング、「問いを引き出す力」を実践の中で鍛えることができます。これは研修やワークショップでは得難い、リアルな教育の現場体験です。
3. CSR/ESGの実践として機能する
教育への投資は、短期的な利益にはつながらなくとも、中長期的には社会的信用の向上、地域ブランド価値の向上、行政との協働機会の創出といった副次的なリターンをもたらします。特にESG投資の観点からも、未来人材育成への貢献は注目されています。
教育への関与は、受け身の「支援活動」ではなく、社会と企業をつなぐ戦略的な「共創プロジェクト」でもあります。
旭川実業高校の実践:変化を生む連携モデル
旭川実業高等学校でのMVP作成講座は、学校と地域が一体となって構築した連携モデルの実践例です。講座当日には、旭川市役所の職員、地元金融機関の担当者、創業支援団体のメンバーがファシリテーターとして参加し、生徒たちのアイデアにフィードバックを行いました。
驚くべきことに、生徒たちは講師陣に対して積極的に質問を投げかけ、「自分のアイデアをどうすれば社会に届けられるか」を真剣に模索していました。企業や行政が提示する“実社会の視点”は、生徒の思考を一段階深く、そして具体的に引き上げます。
このような連携モデルでは、外部講師は単なる“ゲスト”ではなく、“共に学びを創るパートナー”として位置づけています。事前の打ち合わせ、授業中の対話、そして事後の振り返りまでを通じて、教育と社会の境界が自然に溶け合うことを目指し設計しています。
学校からは「外部との接点があることで、生徒のモチベーションが大きく変わる」「先生だけでは引き出せない気づきが生まれる」といった声も聞かれ、地域協働型の教育がもたらす成果が明確に表れています。
未来を支えるパートナーとして
教育に関わることは、一見すると遠回りに見えるかもしれません。しかし、高校生たちが社会の課題に真正面から取り組み、自ら考え、行動し、形にしようとする姿に触れたとき、その“遠回り”こそが最も本質的な社会投資であることを実感します。
旭川実業高校でのMVP講座は、単なる学校の授業ではありません。そこには、企業、行政、地域団体、そして教育現場が互いの知見を持ち寄り、「未来をどう創るか」を共に考える場があったように思います。
私たちは今、教育と社会の境界を超えた“共創”の時代を迎えています。もし貴社・貴機関が、
- 地域や社会への本質的な貢献を模索している
- 若手人材の育成機会を探している
- 持続可能な未来に向けた活動を進めている
のであれば、ぜひ一度この教育実践に関わってみてください。単なるCSRを超えた、“未来に触れる”体験が、ここにはあります。
高校生との接点、地域貢献、人材育成に関心のある企業・行政の皆さまへ。支援内容の登録はこちらから。
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