【教員向け記事】外部講師との対話が生徒を変える──旭川実業高校「中間発表会」実施レポート

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「発表のため」ではなく「問いを深める」場へ

旭川実業高校では今年度、3学年の総合的な探究の時間において、中間発表会をポスターセッション形式で実施しました。私は本校でこの探究活動を統括しており、同時に学びの伴走支援を行う「ツクルヒト」の運営も担っています。

この発表会の最大の狙いは、探究の成果を「見せる場」にするのではなく、外部の大人との対話を通して、問いを深め直すこと。旭川市役所市民生活部地域活動推進課から平島淳嗣さん、木下哲夫さん、工藤優さん。旭川信用金庫課題解決推進部から岸上佳広さん、髙田学さん、佐藤祐哉さん。一般財団法人旭川産業創造プラザ上西智也さん、上伊澤菜摘さんの現場で働く大人を多様な専門性を持つ講師としてお招きし、生徒と一対一での対話を展開しました。

生徒たちは最初こそ緊張していましたが、次第に自分の考えを自分の言葉で語り、講師の問いかけに真剣に応答する姿が印象的でした。「発表する」ことが目的ではなく、「考え続ける」ための中間地点として、確かな手応えを感じた取り組みとなりました。

社会とつながる問い──生徒が選んだ多様なテーマ

今年度の3年生は、それぞれが自分の問題意識を起点に探究テーマを設定してきました。その中には、「子ども食堂の運営改善」「シニア世代の健康維持」「若者への性教育のあり方」「AIと教育の未来」「地域観光の再設計」など、地域社会や日本全体が直面する課題に正面から向き合うテーマが多く見られました。

中には、「水中都市の構想」「肺からプロテインを摂取するアイデア」「AIが髪型を提案する鏡」など、一見突飛に見える発想もありましたが、そこには必ず「なぜそれをやりたいのか」という生徒なりの社会的な問いが存在していました。型にとらわれず、自分ごととして課題に向き合おうとする姿勢は、教師である私にとっても大きな刺激でした。

さらに印象的だったのは、「差別をなくすにはどうすればいいか」「ルッキズムと多様性の共存」など、“正解のない問い”に挑もうとするチームが多かったことです。探究初期段階では抽象的だったテーマも、中間発表に向けて具体的な論点や対象が明確になりつつあり、ポスターの構成にもその成長が表れていました。

フィードバックの力──外部講師が生徒に与えた影響

今回の中間発表では、旭川市役所、旭川信用金庫、旭川産業創造プラザの各機関から、合計8名の外部講師の皆様にご協力いただきました。日頃から地域の課題解決や事業創出に携わる専門家の視点は、生徒にとって何よりもリアルで、そして刺激的でした。

ポスターセッション形式ということもあり、発表は一方通行ではありません。講師は各グループに足を運び、発表を聞きながら、「なぜその課題を選んだの?」「このアイデアが実現したら、誰が喜ぶと思う?」といった問いを投げかけてくださいます。生徒たちは戸惑いながらも、真剣に言葉を選び、自分の考えを伝えようとしていました。

特に印象深かったのは、議論が時間内に終わらないほど白熱したブースがいくつもあったことです。問いが問いを生み、生徒が時間のない中で自ら次の発表の改善している場面もありました。また、生徒同士での質問も自然に生まれ、会場全体が探究的な空気に包まれていたのが印象的です。

「聞いてもらえた」ではなく、「一緒に考えてもらえた」という体験は、教室の中ではなかなか得難いものです。生徒たちの姿勢や表情からも、対話の手応えをしっかりと感じ取ることができました。

写真は発表を聞く旭川市役所の木下哲夫氏(左)とフィードバックをする旭川信用金庫の佐藤祐哉氏(右)

成長を促す9つの視点──育てたい資質・能力とは

この中間発表会を設計するうえで、私たち教員チームが大切にしていたのは、「うまく発表できたかどうか」よりも「どんな力を育もうとしているのか」という視点です。

旭川実業高校では、中間発表会での評価項目として、次の9つの資質・能力を重視しています。

1. 社会に対する問題意識と、問いの設定力
2. フィードバックや失敗を前向きに捉える成長志向
3. 相手の立場に立って伝える共感的な姿勢
4. 課題を筋道立てて説明する論理的思考力
5. 主体的に関わる当事者意識
6. 社会的な視点や責任感
7. 異なる意見や立場を受け入れる柔軟性
8. 探究の目的を見失わない好奇心と動機づけ
9. 既存の枠を超える創造的な発想

これらは、教科横断的に育成すべき「これからの時代を生き抜く力」そのものです。中間発表の場では、生徒の中に芽生えたこうした力が、外部講師や仲間との対話を通じて自然と引き出されていく様子が見られました。

写真は高校生と議論する旭川市役所の平島淳嗣氏

ある生徒は、講師からの厳しい問いかけに一瞬言葉を失いながらも、「自分の考えに穴があったことに気づけた」と素直に振り返っていました。成長は“うまく話せたか”ではなく、“どれだけ考え直せたか”にある──そのことを教えてくれる場になったと感じています。

ツクルヒトとして、学びの生態系をつくる

私は「ツクルヒト」を通じて、地域や社会とつながる探究学習の支援に取り組んでいます。旭川実業高校での今回の中間発表会も、その一環として企画・運営しました。

この取り組みを通じて改めて実感したのは、学びが「学校の中」だけで完結してはいけないということです。生徒たちが自分の問いを深めようとするとき、本当に必要なのは、「正解」を与えてくれる指導者ではなく、一緒に考え、問い返してくれる他者の存在です。

自治体、地元金融機関の方々、企業やNPOの実務者が、生徒の学びに対して真剣に向き合ってくださる。その体験こそが、生徒にとって社会との最初の接点であり、当事者意識を育む土壌になります。

ツクルヒトでは、こうした「学びの生態系」を、全国の高校と地域に広げることを目指しています。探究の時間を単なる授業で終わらせず、生徒が社会の一員として関わる仕組みを、共につくっていきませんか?

中間発表を「生徒が社会とつながる場」に変える取り組みにご関心のある先生方へ。
ツクルヒトでは、外部講師のコーディネートや発表会の設計支援を行っています。
支援校としてのご登録・ご相談は、こちらのフォームからお気軽にご連絡ください。

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