2025年6月、旭川実業高等学校の教室に、旭川市役所や金融機関の職員、創業支援団体の専門家たちが集まりました。目的は、生徒たちが取り組む探究課題を「社会に届くカタチ」に変えるための支援。日本政策金融公庫による「MVP作成講座」を通じて、高校生たちは自らのアイデアを商品やサービスへと具体化する方法を学びました。本記事ではその実践の様子と、導入効果についてお伝えします。
探究が“社会とつながる”瞬間:MVPとは何か
高校での探究活動では、生徒が自ら問いを立て、課題を設定し、解決策を導き出すというプロセスを経験します。しかし、「良いアイデアは出たけれど、それをどう形にして社会に届ければよいかがわからない」という壁に直面することも少なくありません。そうした中で、有効なアプローチとして注目されているのが「MVP=Minimum Viable Product(必要最小限の実行可能な製品)」という考え方です。
MVPとは、サービスや商品を一気に完成させようとするのではなく、まずは“最低限の価値を持つ形”で試作し、それを使ったフィードバックから改善を重ねていくというもの。今回の講座では、まさにそのプロセスを高校生向けに応用し、自分たちのアイデアを社会に出すための第一歩を具体的に学ぶ時間となりました。
「社会にとって意味のある価値とは何か」「自分たちのアイデアは誰のどんな不満を解決できるのか」。講座では、こうした問いに正面から向き合うことで、探究が教室の中だけで完結せず、“社会とつながる瞬間”が生まれていました。
講座設計と進行の全体像
旭川実業高等学校の「MVP作成講座」は、2年生の総合探究の一環として実施しました。年間カリキュラムでは、5月に課題設定とブレインストーミング、6月にMVP作成講座、夏以降に中間発表とビジネスグランプリ参加、そして冬には最終発表と論文作成へとつながっていきます。
講座当日は、講師を担当した日本政策金融公庫の鹿取大祐さんをはじめ、旭川市役所地域活動推進課の平島淳嗣さんと木下哲夫さん。旭川信用金庫から岸上佳広さん、牛草博之さん、佐藤祐哉さん。有限責任事業組合じもじょき旭川から高塚麻紀子さん、松倉友美さんなど多様な外部講師が参画。座学だけでなく、ワーク形式を取り入れながら、「商品・サービス」「ターゲット」「競合」「PR戦略」など、ビジネスを構成する要素を一つひとつ具体的に組み立てていきました。
生徒たちは、自分たちが設定した探究テーマをもとに、「どのような形にすれば価値として成立するのか?」を考えながら、講師にアドバイスを求めたり、意見交換を行ったりと、能動的に取り組む姿勢を見せていました。
このように、単発の特別授業ではなく、年間カリキュラムの流れに組み込まれた設計であることが、生徒の主体的な学びを支える鍵となっています。
高校生がビジネスを考える力を身につけるプロセス
講座の中心にあったのは、「社会の不満や課題から出発し、解決策を具体的な形にする」という実践的な思考プロセスです。生徒たちはまず、自分たちのアイデアに対して「誰に」「どんな価値を」「どう届けるのか」という視点から見直し、競合分析やターゲティングの初歩的な部分を学びました。
たとえば、「食品ロスを解決したい」という漠然としたテーマも、MVPの視点を取り入れることで、「家庭で余ったギフト食品を安価に販売する通販アプリ」という具体的なサービス案へと進化します。その過程で、
- 類似サービスとの違い(差別化)
- ターゲットユーザーの具体像(性別・年代・趣味など)
- 収益化モデル(広告、課金、データ販売)
- 必要な経営資源(人・モノ・技術)
といった要素をワークシートに書き出し、仮説と構想を組み立てていきました。
講座後の変化と成果:自走力はこう育つ
MVP講座を終えた後、生徒たちの姿勢には明確な変化が見られました。講義中にファシリテーターとして参加していた旭川市役所や金融機関の職員に自ら質問を投げかける姿が見られたのです。生徒たちは、自分たちの問いに対して“社会の視点”から意見を求めるようになっていました。
これは、単に外部講師の話を「聞く」授業ではなく、「使う」授業であったことの証です。どんなに優れた知識であっても、生徒自身が“自分ごと”として問いを立て、対話を通じて考えを深める経験がなければ、思考の定着にはつながりません。
また、MVPという手法を用いたことで、アイデアを構想するだけでなく、「どこまでなら今の自分たちにできるか」「どうすれば社会に届けられるか」といった“現実との接点”を持てた点も、主体性や自走力の育成に効果を発揮しました。
この講座が機能する理由:ツクルヒトの設計思想
探究の授業が形骸化しないためには、生徒自身が「なぜこれを学ぶのか」「自分にどんな意味があるのか」を腹落ちさせる設計が欠かせません。ツクルヒトが提供する探究×起業家教育プログラムは、その点において実践的です。
その要は、「ゼロから形にする体験(創造性)」「社会との接点を持つ環境(現実性)」「外部人材との対話(越境性)」の三要素を一体化させたことにあります。今回のMVP講座も、まさにその設計思想が生きた授業でした。
- 自分たちで課題を設定し、価値仮説を立てる
- 外部講師と対話しながらブラッシュアップする
- 最小限の形を構想し、検証するプロセスを体験する
この一連の流れは、単なる知識獲得ではなく、「社会の中でどう価値を生み出すか」という構想力と行動力の育成に直結します。教員のリードだけでは生まれにくい“自走する学び”が、外部との連携によって実現を目指しています。
導入をご検討の先生方へ
「探究の時間をもっと意味ある学びにしたい」「生徒たちの視野を社会に広げたい」――もし、そんな想いをお持ちであれば、MVP作成講座のような実践は強い選択肢となり得ます。
旭川実業高校のように、すでにある探究カリキュラムに組み込む形でも、単発の出張授業として導入する形でも対応可能です。また、地域の金融機関や自治体と連携することで、教員一人では担いきれない専門性や社会性も自然と補完されます。
生徒たちは「教わる学び」から「創る学び」へと移行し、問いを深め、自ら動き、仲間と共に形にしていきます。そこには、点数では測れない成長の軌跡があります。
まずは一度、ご相談ください。貴校の探究に合った形を共に考え、創りましょう。
探究×起業家教育プログラムにご関心のある先生方へ。導入相談・資料請求はこちらからお気軽にお問い合わせください。
コメント